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SysTune コラム

伝達関数の測定

SysTuneの伝達関数測定の話に移りましょう。
ご存知の通り、伝達関数の測定には、必ずレファレンス信号が必要です。ライブコンサート中には、音楽信号をレファレンス信号にしますが、リハや仕込みの段階では広帯域にエネルギー成分が分布しているピンクノイズやスイープ信号を用います。
SysTuneの内部音源には、ピンクノイズと二種類のスイープ信号(リニアとLog)が用意されており、かつ、ユーザーカスタムWAVファイルが使えます。

SysTuneのピンクノイズには特徴があります。それは、ピンクノイズ自体に、設定したFFTの時間長分の周期性がデフォルトで備わっていることです。再生音を聴くと、明らかに振幅変調されたような音になっていることが分かります。
結果として、通常FFTに必要な窓関数が不要になり、より高速に精度のよい伝達関数計算が可能になります。

音響系の伝達関数の測定では、測定マイクロフォンで収音する音が、100%レファレンス信号に基づいた音であることは絶対にありません。必ず外来の雑音が含まれ、かつスピーカーと測定マイクロフォンの間の距離による時間遅延でFFTの取り込みタイミングがずれます。特にリアルタイムで連続的に伝達関数を測定する場合、測定の信頼性を測る手段として、レファレンス信号と測定信号の相互相関の度合いを計ったコヒーレンス関数を同時に測定しておかなければなりません。

SysTuneでは、コヒーレンス測定はもちろんのこと、独自のインパルス応答測定結果を用いた信頼性情報もユーザーに提供しています。
それはIRスタビリティと呼ばれ、平均回数に関係なく、直近の二回のインパルス応答測定結果の類似性を%で表示します。結果として、短い時間間隔でのFFTブロックデータの有効性を評価できます。
コヒーレンスとIRスタビリティは、伝達関数の測定画面上に表示されます。また、コヒーレンスについては、閾値を設定し、伝達関数測定結果の処理フィルターとして使用できます。

IRスタビリティ機能を唐突にご紹介しましたので、ここでSysTuneの二次元FFT測定の全てをまとめて解説します。
一般的な音響測定ソフトウェアは、周波数領域の測定がほとんどです。代表的なものが一次元FFTのスペクトラムとスペクトログラム、そして二次元FFTの伝達関数です。もう一つの測定領域である時間領域で最も重要な測定項目は、インパルス応答測定です。

インパルス応答の測定は、測定ソフトウェアによって大きく三つに分かれています。
一つは、主に建築音響の測定に使われるもので、特殊なスイープ信号(Time Stretched Pulse)を用います。短時間に高いS/Nで測定できますが、ライブPA中は測定できません。

次に、一般的なライブPA用の音響測定ソフトウェアで、主にDelay 測定時のFFTデータや記録された伝達関数を逆FFT(周波数領域の情報を時間領域に変換する)して求めるものがあります。ただし、ライブ中に刻々と変化するインパルス応答の測定には限界があります。つまり、非実時間(ノンリアルタイム)でのインパルス応答測定になるということです。

最後が、ライブPA中に再生音を用いて、実時間(リアルタイム)でインパルス応答を測定する機能を持ったものです。高速演算と描画の関係で実現が困難だったのですが、SysTuneはReal-Time Deconvolution TM という特許技術で開発に成功しました。
信号処理演算としては、他のソフトウェアと同様に逆FFTを行っているのですが、伝達関数の計算と同時に行いますから時間当たりの演算量が飛躍的に増加し、さらにPC画面上への高速描画がポイントなり、極めて高度な数値処理のノウハウを必要とします。結果として、SysTuneは、音楽信号をレファレンス信号として用いた状態で、伝達関数とインパルス応答を同時に観測することができ、それこそがSysTuneの最も優れた特長です。

伝達関数測定と実時間インパルス応答測定は、表裏一体で表現方法が異なるだけなのですが、両方を一度に手に入れることで様々な音響分析が可能になります。
その代表的なものが、求めたインパルス応答から反射音成分を切りだし(時間窓をかけるという風に表現します)、できるだけ音源(スピーカー)だけの伝達関数を求める、「Windowed 伝達関数」というSysTune独自の機能です。これは、部屋の反射音や残響の影響をできるだけ減らし、スピーカー自体の特性を確認するのに大変便利な機能で、アラインメントやプリセットEQの確認なども容易になります。

次回は、Windowed Transfer Functionの具体的な使い方と、測定精度向上のための特殊なフィルターについて解説します。

  ご愛読ありがとうございます。次のアップをお待ち下さい。

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